相撲の仕組み

行 司

行司と聞けば思い浮かぶのは軍配を上げて勝負の判定をする役目ですが、それ以外にもこなさなければならない役割はたくさんあります。神主のような装束や「行司」という文字からもわかるように行司は神事の司祭。土俵に関わることの先導や進行は必ず行司が行います。また、相撲協会の協会員として番付を書く他、本場所の場内アナウンスや取組編成会議の書記として本場所の運営にも関わったり、巡業など協会のイベントの時にはスケジュール調整や宿泊先・移動手段の手配も行ったりします。所属部屋ではお礼状などを実際に書くのは行司の仕事です。

力士のいるところに行司さんは必ずいて何か仕事をしているんです。
相撲協会には行司会というのがあり、行司は全てここに所属します。行司会を仕切るのは階級が一番上の立行司。そこに三役格・幕内格・十両格から1人ずつ代表で選ばれた行司が行司監督として行事の役割分担などして運営をします。新弟子の育成なども行司会を通して指示が出て、先輩行司が指導に当たります。

2019年1月場所の時点で協会に所属する行司は42名。定員は45名と狭き門です。名前の姓は「式守」家か「木村」家のどちらかに決まっています。昔はもっと家名があったようですがすったもんだあって今は2家だけ。

行司の家名は部屋や一門によって決まっているので、入門した時点でどちらの姓を名乗るかはもう内定しています。下の名前は最初は本名ですが、格が上がるにつれて先輩行司の名前を名乗ったり、由緒ある行司名を名乗ったりします。代々伝わる行司名は十両格以上の行司でないと襲名できず、特に結びの一番は「式守伊之助」か「木村庄之助」を襲名した最も格が高い立行司でないと取り仕切れません。1958年までは立行司の名前で年寄名跡がありましたが、現在は廃止されています。ちなみに「木村瀬平(木瀬部屋)」や「式守秀五郎(式秀部屋)」は行司名由来の相撲部屋です。

 

行司になるには

義務教育を修了した19歳までの健康な男子なら行司になることが出来ます。けっこう若くから覚悟を決めなきゃならないんです。相撲部屋の門をたたくのが一般的で、部屋を通じて相撲協会と行司会に推薦してもらい、審査に合格すればもう行司の仲間入りです。

ただし、最初の3年間は養成期間で、部屋での雑用をこなしつつ新弟子とともに相撲教習所で相撲の歴史を学んだり、勝負の判定方法を先輩行司から指導してもらったり、将来的には番付・巻の書記や呼び上げ・言上・場内アナウンスもしなければなりませんから、相撲字や発声の仕方を習ったりと厳しい修行が待っています。

 

行司の階級

行司も力士と同じで縦社会。下は序ノ口格から上は立行司まで8ランクに分かれ、各階級で待遇も見た目も全然違ってきます。行司の昇格・降格は年1回、九月場所後の取組編成会議で決まります。

 

土俵上での仕事

取組のときの行司は、勝敗を下す役というよりは、「フェアな煽り役」と言った方がしっくりくるかもしれません。審判は審判委員がやりますし、立ち合いも呼吸を合わせてスタートを切るのは力士同士ですから。取組中の「はっきよい!」という定番のフレーズ以外にも、力士が土俵に上がるときの呼び上・仕切りや立ち合いのときの掛け声・廻し待った・水入り・軍配を上げた後の勝ち名乗りと土俵で声を出すのは行司だけ。組み合っている力士にぶつからないよう避け、邪魔にならないよう落ちた下がりをパッと外にだし、廻しが外れてないか気にしながらも勝負を煽る相撲版DJが土俵上での行司なのです。 また、土俵入りの時には力士の先導役、土俵祭りや神送りの儀の時には司祭として土俵上で進行役を果たします。

 

場内アナウンス・顔触れ言上

本場所中にアナウンス席に座って力士の紹介・懸賞の読み上げ・取組の決まり手をアナウンスしているネクタイ姿の人も実は行司さん。観客の呼びだしや館内禁煙など注意事項の場内放送もアナウンス係の行司がやっているんです。アナウンス係は2人ペアで、一人はアナウンスでもう一人は勝敗の記録など補佐をしています。 また、翌日の取組を相撲字で書いた紙を扇子の上にいて中入り前に読み上げる「顔触れ言上」を始め、結びの一番や新序出世披露でのセリフの呼び上げも行司の仕事です。

 

相撲字

相撲に関連する紙ベースのものはたいてい「相撲字」という独特のフォントで書かれていますよね。字画の隙間が少なくて書くのは相当難しいです。本当の名前は「江戸文字根岸流」と言います。ちなみに歌舞伎や落語の看板文字も江戸文字ですが、相撲とは流派が違ってフォントも微妙に違います。この相撲字を書くのも行司の仕事。番付にとどまらず、取組編成を決める巻も行司が書きます。会場の電光掲示板に書いてある力士の四股名も全部行司さんの手書きっていうのはホントに驚きですよね。

 

部屋での仕事

親方が社長、おかみさんが経理・庶務なら行司は総務です。宛名書きや帳簿付けなど書き物系は基本的に行司の仕事。他にも朝は稽古を見に来るお客さんの相手やスポンサーへの連絡、若い行司は部屋の電話番もしていたりします。

 

十両以上行司一覧(2020年7月場所時点)

立行司式守伊之助(高田川部屋)

三役行司木村玉治郎(立浪部屋)、木村容堂(九重部屋)、木村庄太郎(春日野部屋)、木村晃之助(九重部屋)

幕内行司木村寿之介(友綱部屋)、式守与之吉(宮城野部屋)、木村元基(湊部屋)、木村秋治郎(春日野部屋)

式守錦太夫(二所ノ関部屋)、木村銀治郎(峰崎部屋)、木村要之助(東関部屋)、式守鬼一郎(追手風部屋)

十両行司木村朝之助(高砂部屋)、木村隆男(田子ノ浦部屋)、木村光之助(峰崎部屋)、木村行宏(玉ノ井部屋)

式守慎之助(二所ノ関部屋)、木村吉二郎(芝田山部屋)、木村勘九郎(山響部屋)、木村千鷲(出羽海部屋)

木村善之輔(春日野部屋)

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